新玉川温泉に逗留した1日、朝4時半に起き、玉川温泉まで朝の冷気を浴びながら、山道を20分歩いて岩盤浴に出かける。この時間にはもう8割方、場所は埋まっている。目指す場所がある人は、辛抱強くそこが空くのを待っている。岩盤浴は大体1時間位温まるのが目安で、それ以上居る人はまずいない。この日は日中は乳頭温泉郷の先達川に沿った温泉の湯巡りをすることにする。新玉川温泉から田沢湖駅へ行くバスの一番は9時30分、羽後交通の路線バスである。バスは標高800mの高原から玉川沿いに南下し、玉川ダム(宝仙湖)の縁を巡り、田沢湖へと下る。湖畔でジャンボタクシー(10人乗り)をチャーターし、先ずは乳頭温泉郷へ向かう。
田沢湖からは乳頭温泉行きのバスは出ているが、行き先の「乳頭温泉」は「乳頭温泉郷」といった方が正確かも知れない。乳頭温泉というと鶴の湯温泉と思いがちだが、鶴の湯へは路線バスなら「鶴の湯温泉旧道口」で、黒湯温泉なら「国民休暇村」で下車して、どちらも30分位歩かねばならない。路線バスで直接に行けるのは、終点の「乳頭温泉」下車の大釜温泉と、一つ手前の「妙乃湯温泉」の妙乃湯温泉のみである。
タクシーの運転手は実に親切で、いろんな話をしてくれる。それで温泉巡りの話をすると、黒湯温泉から反時計回りに、孫六温泉、大釜温泉、蟹場温泉、妙乃湯温泉と巡って、妙乃湯温泉からバスで田沢湖へ戻った方がよいと教えてくれた。タクシーは秋田駒ケ岳(1637m)の山裾を巡り、さらに山奥へ、前方に乳頭山(1477m)が見えてくる。一見して女性の乳房そっくりの山体、しかも頂上が乳首のように尖っている。別名は烏帽子岳である。乳頭スキー場を過ぎると休暇村田沢湖高原に着く。ここにも温泉が出ている。ここから県道のバス路線を外れて林道に入る。車の交差をする待避所が所々にあって、番号が付されている。湖畔から30分ほどで駐車場に着いた。車なら30台は止められる位の広さ、黒湯温泉や孫六温泉へ車で来る人はここで車を止めることになる。乗合タクシーの料金は7千円、一人千円とは安い。
3.黒湯温泉 (秋田県仙北市田沢湖生保内黒湯2-1 )
駐車場から急な山道を下ると、すぐに茅葺きの屋根が下に見えてくる。黒湯はこの温泉郷では最奥に位置している。開湯は鶴の湯に次いで古いと言われ、一時は鶴の湯を凌ぐ賑わいだったとかで、「鶴の湯」に対して「亀の湯」と呼ばれた時期もあったようだ。でも開業したのは大正になってからという。宿は数棟あり、湯治客のための自炊棟もある。入湯料はこの温泉郷では妙乃湯を除いてすべて500円である。
早速混浴露天風呂がある「上の湯」へ行く。白濁した温泉水と温度調節のための先達川の渓流が樋を伝って流れ込む仕掛けになっていて、一方は熱め、もう一方は温め加減になっている。木で組んだ湯船には10人は入れようか、かなり広い。お湯はやや青みを帯びた白濁した湯だが、サラッとしているのは川の水を導いているせいだろうか。もちろん内風呂もある。ほかに、打たせ湯や内湯、女性専用の露天風呂もあって、こちらは「下の湯」と言われていて、お湯はやや重いとされている。泊り客は、朝は「上の湯」、晩の寝る前には「下の湯」という入り方をするそうだ。鄙びた素朴な開放感のあるお湯に浸っていると、正に極楽である。従業員の方の応対もよく、実に清々しい。
次に行く孫六温泉への道を聞くと、一旦元の駐車場へ戻ってから行くよりは、山道を辿れば5分位で行けますと言われる。
4.孫六温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林)
温泉脇の人一人通れる位の細い径を下ると、程なく駐車場からの広い道に出た。なおも下っていくと、先達川の向こう岸に孫六温泉が見えてきた。川に架かる木橋を渡るとそこが孫六温泉である。受付に男の人が一人、ここの親父さんなのだろうか。次に行く大釜温泉への道を聞いても、茅葺きの小屋の脇に道があるとだけ、えらくつっけんどんだ。黒湯温泉が賑々しく親切だっただけに、粗野な感じがする。内風呂は勿論、露天風呂がどこにあるかも分からない。うろうろしていると、標柱に案内があった。ここには4つの源泉があるとかで、それぞれに湯小屋があり、点在している。始めに「石の湯」に入る。
小屋の中に、石切り場の石を切り出した後の穴蔵のような雰囲気の湯船、冷たい暗い感じがする。早々に出て、外の石で囲った混浴露天風呂に移る。底も石で固めてある。お湯は無色透明、無味無臭である。ほかに内風呂が3つ、露天風呂が3つあるそうだが、2つ入ってここを出ることにする。茅葺きの小屋まで行くと、道があり、ここまで軽自動車が入ってきている。下流に向かって20分ばかり歩くと建物が見えてきた。
5.大釜温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林50)
建物は学校の校舎そのもので、入口には「乳頭温泉小学校分校」の標識、二宮金次郎の石の像もある。何でも温泉宿は火災で全焼し、その年廃校になった分校の校舎を移築して営業を再開したとか。建物の正面には大きな丸い大時計もある。時間は丁度お昼、食事をしたいと言ったが、昼食は出していないという。もう一つ下のバス停にある妙乃湯さんだったら出すかも知れませんとかで、此処はパスすることにした。聞くと強酸性の熱泉が源泉とか。外には足湯もある。この温泉の前が、終点「乳頭温泉」のバス停である。
6.妙乃湯温泉 (秋田県仙北市田沢湖生保駒ケ岳2ー1)
バス道路の県道を3分ばかり歩いて橋を渡ると、左手に妙乃湯が見えてきた。見た目には旅館という雰囲気で、ここでは湯治と言う雰囲気は全く感じられない。聞くと、今時予約が難しい温泉宿の一つだという。昼食はと聞くと、出せますとのことで、上がることにする。ここの入湯料は、他より200円高い。混浴露天風呂には「金の湯」と「銀の湯」があり、金の方は鉄分を含むのか黄土色の濁った湯、一方銀の方は無色透明、どちらも遠泉水と湧き水とを混ぜて湯温の調節をしている。渓流の豪快な流れを眺めながらの入浴、なんとも気分は最高である。金と銀とに交互に入る。また建物の2階に内風呂「喫茶去」というのがあると案内があったので、何かと興味津々、行くと木で組まれた大きな湯船の底に、黒い中位の玉石が敷き詰められた風呂で、立って入ると足裏のツボが刺激される仕掛けになっていて、気持ちが良い。珍しい趣向である。
私は内風呂を終いにして、食事をする妙見の間に戻ったが、約何人かは混浴露天風呂に残っていた。するとそこへ赤ん坊を連れた外国人の夫婦が入って来られたとかで、相棒達が部屋へ戻ってくるのは随分と遅かった。私達が食事をしていると、件の外国人夫婦も上がってこられたが、中々綺麗な方だった。帰りのバスはこの宿の玄関の真ん前に止まるという。破格の待遇である。今の繁盛になったのは、今の女将が建築会社で仕事をしていて、建物も調度もセンスの高いものにしたからとかで、特に女性に人気が高いということだった。
この後、県道の最奥にある蟹場温泉へ行く予定だったが、新玉川温泉までバスで帰るとすると、15時のバスを逃すと帰られなくなるので、割愛することにし、またの機会とする。
7.蟹場温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林50)
行けなかったが、簡単な紹介をしたい。開湯も開業も江戸末期という古い温泉場だが、現在は建物は近代的な旅館に建て替えられている。この温泉の先代は村長をしていて、氏の尽力で乳頭温泉郷までの山道が県道に整備されたという。蟹場温泉は、その県道の最奥に建っている。この温泉の自慢は露天風呂の「唐子の湯」で、本館から雑木林の中の一本道を歩いて行くと、渓流沿いに広々とした露天風呂が現れるという。夜には湯屋には灯りが入り、幻想的な雰囲気が現出され、写真にはこの灯りが入った情景の写真が多い。
8.休暇村・田沢湖高原 (秋田県仙北市田沢湖生保駒ケ岳2-1)
乳頭スキー場の先、乳頭温泉郷の入り口にあり、近代的な設備が整っている。
以上8つが乳頭温泉郷8湯で、外来入浴できる7湯というのは、鶴の湯別館を除く温泉を指し、乳頭温泉巡りという場合にはこの7湯巡りを指す。因みに7湯の代表的な泉質と適応症を挙げる。
1.鶴の湯温泉 [泉質]含硫黄・ナトリウム・カルシウム・塩化物・炭酸水素泉。ほか3種。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症、リウマチ、皮膚病、糖尿病ほか。
3.黒湯温泉 [泉質]単純硫化水素泉。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症、抹消循環障害、糖尿病ほか。
4.孫六温泉 [泉質]ラジウム鉱泉。ほか3種。 [適応症]胃腸病、皮膚病(蕁麻疹)、創傷ほか。
5.大釜温泉 [泉質]酸性含砒素ナトリウム塩化物硫酸塩泉。 [適応症]真菌症(水虫)、慢性膿皮症、リウマチ性疾患ほか。
6.妙乃湯温泉 [泉質]カルシウム・マグネシウム硫酸塩・単純泉。 [適応症]動脈硬化症、皮膚病、消化器病など。
7.蟹場温泉 [泉質]重曹炭酸水素泉。 [適応症]糖尿病、皮膚病ほか。
8.休暇村・乳頭温泉郷 [泉質]単純硫黄泉・ナトリウム炭酸水素泉。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症など。
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