2018年11月18日日曜日

新シーズン第3回目の OEK 定期公演は圧巻だった(2)

(承前)
2.モーツアルト 交響曲 第 40 番  ト短調 K.550
 モーツアルト最晩年の 1788 年に作曲された交響曲の第 39 番、第 40 番、第 41 番「ジュピター」の3曲は、モーツアルトの三大交響曲と言われている。でもこの3曲がどんな目的で書かれたのか、果たして依頼者があったのか、また初演の日時や場所も不明、また果たして生前に演奏されたのかどうかも不明という、実にミステリアスな最晩年の交響曲である。
 さてこの40番は、41 曲ある交響曲の中で、25番と共に唯2曲のみ短調であることでも知られている。比較的演奏回数も多く、私は OEK での演奏も数回聴いている。そして私が最も親しみを持てたのは、OEK が岩城宏之さんの指揮で初めて CD を録音した時の曲が、この曲とチャイコフスキー作曲の「弦楽のためのセレナード  ハ長調」で、しかもその録音が私が現在住んでいる野々市市 (当時野々市町)の文化会館「フォルテ」で行われたことである。このこともあって、この CD を購入してからは、就寝時に家内と共に聴くことを常にしていた。それだけに愛着が深く、家内はクラシックは余り得手ではないが、このモーツアルトの交響曲第 40 番はお気に入りで、この曲が演奏曲目に入っていれば聴きたいというまでになった。私も暗譜できる程になってしまった。演奏時間は 30 分ばかり、CD は両方合わせて1時間ばかりだ。
 第1楽章 モルト・アレグロ V n による流れるような 序奏 の第1主題で始まり、そして高揚し、その後柔和な第2主題が。でも曲の流れというか印象は、これまで聴いてきた第 40 番とは全く違った印象のものだった。短調の曲なのだが、鈴木さんの実に激しい全身を使った身振り手振りの指揮に度肝を抜かれてしまった。何という激しさ、これを情熱が漲った指揮というのだろうか。OEK の前音楽監督、現桂冠指揮者の井上道義も時にこのような激しい指揮をされたことがあるが、とてもその比ではない動き、クラシックでのこのような激しい指揮ぶりは全くもって初めての経験だった。
 第2楽章 アンダンテ ひっそりとした緩徐楽章のはずなのだが、指揮はやや収まりが見えるものの、相変わらず激しい。
 第3楽章 メヌエット 本来は優美な踊りの曲なのだが、後半には激しさが増した。
 第4楽章 アレグロ・アッサイ 急速に上り詰めるような、駆け上がるような高揚感。もう最後はこれでもかこれでもかというような熱狂的な演奏で終末になった。本当に驚いた。こんな40番もあるんだ。終わってスタンディングオベーションもあり、聴衆はこの情熱的な破天荒な演奏に惜しみない大拍手で応じた。何とも激しい40番だった。もうこんな40番は聴けまい。

 休憩後の後半は、メンデルスゾーンの未完のオラトリオ「キリスト」と宗教音楽の詩篇42番「鹿が谷の水を慕い喘ぐように」の2曲。合唱は RIAS 室内合唱団 ( ドイツ ) 。この合唱団は「世界の10の合唱団のひとつ」に選ばれているという名門。ジャスティン・ドイルが首席指揮者・藝術監督をしているとあるが、今回は金沢には来ていない。来沢したメンバーは、ソプラノ 11 名、アルト 8 名、テナー 9   名、バス 8 名の総勢 34 名である。この後半の2曲にはパイプオルガンの伴奏が付いた。
3.メンデルスゾーン:オラトリオ「キリスト」作品 97   (Sop/Ten/2Bas/Cho/Orch)
 第1部「キリストの降誕」、第2部「キリストの受難」からなり、本来であれば第3部「復活と聖天」と続く予定だったらしいが、早世して完成には至らなかったという。全体を通じて、ソプラノ独唱が1、テノール独唱が6、三重唱が1、合唱が6、コラールが2から成っている。歌詞はドイツ語である。指揮は相変わらずダイナミックだった。
4.メンデルスゾーン:詩篇42番 作品 42 (Sop/2Ten/2Bas/Cho/Orch)
 第1曲「合唱」 第2曲「アリア」ソプラノ 第3曲「レチタティーヴォとアリア」ソプラノ 第4曲「合唱」 第5曲「レチタティーヴォ」ソプラノ 第6曲「五重唱」ソプラノ・テノール・バス 第7曲「最終合唱」 世界に名立たる合唱団、ソロも合唱も実に素晴らしかった。指揮も凄かった。
 

2018年11月15日木曜日

新シーズン第3回目の OEK 定期公演は圧巻だった(1)

 2018 年9月に始まった OEK (オーケストラ・アンサンブル金沢 ) の新シーズンの演奏会も、11 月に入ってシーズン第3回目の第 408 回定期公演フィルハーモニー  シリーズが 11 月1日に石川県立音楽堂コンサートホールで開かれた。OEK が本拠地の金沢で定期公演するのは、年間でフィルハーモニー・シリーズが8回、マイスター・シリーズが5回の計13回で、ほかにファンタスティック・オーケストラコンサート (以前は定期公演にカウントされていたが、現在はカウントされていない)が3回ある。さて、今回の OEK 設立30年のこのシーズン第3回目の定期公演のキャッチフレーズは、「 OEK と日本が誇る世界の マサアキ・スズキと OEK の至福の化学反応」とある。しかし私は不覚にもこの著名な指揮者の名は知らず、ましてや聴いたこともない。でもこの驚くべきキャッチフレーズを見て、これまで接したことのない新しい感覚での演奏や演出が見られるのではないかと心待ちにし、期待もした。
 第 408 回定期公演の概略は、指揮:鈴木雅明、ソプラノ:リディア・トイシャー、テノール:櫻田 亮、合唱:RIAS 室内合唱団、コンサートマスター:アビゲイル・ヤング ( OEK 第1コンサートマスター)という触れ込み。演奏曲目は、クラウス/教会のためのシンフォニア、モーツアルト/交響曲第40番ト短調、メンデルスゾーン/キリスト、同/詩編42番「鹿が谷の水を慕いあえぐように」の4曲。これらの曲目では、モーツアルトの交響曲第40番以外は聴いたことがあるかも知れないが記憶にはなく、しかも声楽曲とあっては尚更だ。また指揮者の鈴木雅明という方も私には未知の方であり、どんな演奏が聴けるのか、実は聴くまでは楽しみと不安が入り交じった感情だった。
 指揮者の鈴木さんのプロフィールはというと、現在東京藝術大学の名誉教授であり、イェール大学やシンガポール大学でも客員教授をされているという。そしてバッハ・コレギウム・ジャパンの創設者であり、バッハ演奏の第一人者としても名声を博されているとのこと、また近年はバロック・アンサンブルとの共演も多いという。だからかその功績もあって、ドイツ連邦共和国からは功労勲章を授与されているし、ドイツ・ライプツイッヒ市より「バッハ・メダル」、ロンドン王立音楽院からもバッハ賞を受賞されているという。また日本でも紫綬褒章を受賞されている。そして母校の東京藝術大学に古楽科を新設されたとも。でも私にとっては初めて接する方だった。
 プログラム
1.クラウス:教会のためのシンフォニア ニ長調 VB 146
 クラウスはドイツで生まれ、スウェーデンで活躍した宮廷作曲家とある。生年はモーツアルトと同じ1756 年、没年はモーツアルトの1年後の 1792 年、モーツアルトと同じく早世だったという。作風も当時の作風もあってか、聴くと聴いたことがあるような旋律があるのに気付く。「スウェーデンのモーツアルト〕と言われる所以に納得できる。生前にイタリア、フランス、オーストリアを巡る旅に出た折に、ウイーンでモーツアルトの知遇を得たという。この曲は 1789 年の作曲で、ストックホルムの聖ニコライ教会で行われたスウェーデン議会の開会式で初演されたという。曲は2部構成で、モーツアルトの交響曲を思わせるような穏やかで心が和む曲だった。鈴木さんの指揮はというと、穏やかながら、両手上半身をフルに使われての指揮、静かな曲だが、それにしても驚きの指揮だった。